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東京高等裁判所 昭和55年(ネ)472号 判決

控訴人ら

伊波善春

他一六名

右控訴人ら訴訟代理人

山本政明

他一五名

被控訴人

ノースウエスト・エアラインズ・インコーポレイテッド

右日本における代表者

レジナルド・コートネイ・ジェンキンス

右訴訟代理人

福井富男

柴崎洋一

神崎直樹

主文

1  控訴人らの被控訴人に対する主位的請求に関する控訴をいずれも棄却する。

2  原判決中控訴人らの被控訴人に対する予備的請求を棄却した部分をいずれも取消す。

3  被控訴人は控訴人らに対し、別紙債権目録中請求債権(二)欄記載の各金員及びこれらに対する昭和五〇年一月二六日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。

4  訴訟費用は第一、二審を通じこれを五分し、その二を控訴人らの、その余を被控訴人の各負担とする。

事実《省略》

理由

一被控訴人が民間定期航空運輸事業等を営むアメリカ法人であり、肩書営業所のほか大阪及び沖繩に営業所を有していること、控訴人らが昭和四九年一一月一日現在被控訴人の従業員で組合に所属し、控訴人ら主張のとおりそれぞれ沖繩または大阪の各営業所において勤務していたこと、被控訴人が控訴人らに対し、それぞれ控訴人ら主張の期間休業を命じ、控訴人らが当該期間中就労しなかつたこと、控訴人らがもし右の期間通常に就労したとすれば、その間に得べかりし賃金の額がそれぞれ控訴人らの主張のとおりであること、組合がかねてから被控訴人に対しジャスコとの契約を職安法違反であると指摘していたこと、組合が昭和四九年九月一七日被控訴人とジャスコとを同法違反を理由に告発したこと、そのころ被控訴人がその所有する機材の一部をジャスコカラーに塗変えし始めたこと、被控訴人がジャスコから派遣されているグランドホステスに対し被控訴人の行うグランドホステス公開募集に応ずるよう求め、これに対し組合は全員無試験正社員化を要求して第一次ストライキが決行されたこと、被控訴人が同年一〇月二二日搭載課と貨物課との統合を発表し、かつ被控訴人がジャスコに被控訴人所有の機材を売却したこと、組合が右統合撤回と売却中止を要求したこと、組合が控訴人ら主張の日から第二次ストを行い、ハンガー及びその附近に被控訴人所有の機材を集合させたこと、被控訴人が同年一一月一八日東京地方裁判所に組合を相手方としてその主張の内容の仮処分を申請し、同裁判所が和解の勧告をしたこと、同年一二月六日大森公共職業安定所長が被控訴人に対し控訴人ら主張の通告をしたこと、右事件で和解が成立し、控訴人ら主張の日に第二ストが解除されたことは、当事者間に争いがない。

二控訴人らは、第一次的請求として右不就労期間における賃金の請求をなしているので考えてみる、労働基準法第二六条は「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。」と規定しており、右規定は、使用者はその責に帰すべき事由の有無にかかわらず労働者に休業を命ずることができ、右休業が使用者の責に責すべき事由による場合は使用者は労働者に対し所定の休業手当を支払うべき公法上の義務を負い、しからざる場合においては右の義務を負わないことを意味することは明らかであつて、しかも法が、使用者が労働者に対し賃金を支払うべき義務を負う場合に、これと重畳して休業手当支払義務をも負うべきことを定めたと解することは困難であるから、同条の解釈としては使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は休業期間中当該労働者に対し、賃金の支払いにかえて、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払うべきことを定めたものというべきである(このように解するときは、最低六〇パーセントの休業手当を支払うことさえ覚悟すれば、使用者は好きなときに労働者に休業を命ずることができることとなり、労働者に著しく不利であるから、使用者の恣意的な休業に対しては休業手当債権のほかに、これと並んで賃金債権の成立の余地をも認め、両者が競合する場合には、いずれを行使するかは労働者の選択に委すべきであるとの見解もあると思われるが、使用者は常に絶対的強者である訳ではなく、休業手当を払つて労働者に休業を命ずることは、通常使用者にとつて著しい不利益となるのであり、賃金と休業手当の差額の支払を免れるために、使用者が安易に休業を命ずるという事態の可能性は決して大きくはないと考えられるから、前記の解釈は、労働者に対して特に苛酷なものであるということはできない。)。それ故本件において被控訴人が控訴人らに対し休業を命じ、かつその結果控訴人らが就労しなかつた事実がある以上、使用者である被控訴人の責に帰すべき事由の有無に従い、休業手当請求権の有無の問題があるのはともかくとして、賃金請求権の存否はもはや問題とならないことは、既に述べたところから明らかであつて、控訴人らの本件賃金請求は主張自体失当であるといわざるをえない。

三次いで休業手当請求について考える。

1  本件休業手当請求の当否が、被控訴人のなした休業について被控訴人の責に帰すべき事由があつたか否かにかかるものであることは既に述べたとおりである。そして被控訴人が本件休業命令を発するに至つたのは、後に認定するとおり組合が羽田地区において機材占拠を含むストライキを行い、その結果沖繩及び大阪を経由する航空機の正常な運航を期待することができなくなつたためであるところ、被控訴人はストライキは労働者の権利行使であつて、社会通念上いかに使用者が努力しても避けられるものではないから、使用者にとつて一種の不可抗力であつて、一部ストの結果、ストライキを行つていない労働者を就労させることができず、又は就労させることが無意味となるような場合には、右ストライキを行つていない労働者に対する休業命令については使用者すなわち被控訴人の責に帰すべき事由はないというが、ストライキが労働者の権利行使であることは当然であるとしても、使用者はストライキに先行する労使紛争の当事者であつて、使用者の右紛争における進退、態度がストライキ発生の有無に大きく影響することは当然であるから、ストライキを天災地変と同視することは相当ではなく、客観的な立場からすればストライキの発生につき使用者の責に帰すべき事由があるか否かの判定は可能であり、もし休業を余儀なくさせたストライキの発生について使用者の責に帰すべき事由があると認められ、かつストライキの結果休業のやむなきに至る虞のあることが予測されるときは、当該休業自体について使用者の責に帰すべき事由があるといわざるをえないであろう。そうして、労働基準法が労使間の利害の調節というよりも、労働者が社会的弱者であることを前提として、その保護を図ることを目的とする法律であることに鑑みるときは、同法第二六条は休業についての帰責事由が使用者側と労働者側に併存しうることを前提としたうえで、使用者側に右の事由が無視しえない程度において存在するときは基準賃金に対する最低六〇パーセントの休業手当を支払うべき義務のあることを定めたものと解するのが相当である。

被控訴人は本件休業命令が、控訴人らの所属する組合の行つた機材の占拠などの実力行使を伴つた違法なストライキの結果やむなく発せられたものであるから、被控訴人は休業につき帰責事由はないと主張し、組合の実施した本件ストがその方法において違法とみられてもやむをえない点のあつたことは後述するとおりであるが、休業に対する帰責事由すなわち故意過失は労使双方に併存しうるのであるから、組合が違法ストを通じ休業に対し帰責事由があるとしても、それだけで被控訴人に休業に対する帰責事由がないといえないことはもちろんである。

2  よつて進んで、本件第二次スト発生につき被控訴人の責に帰すべき事由があるか否かについて検討する。

(一)  本件ストライキの経緯

〈証拠〉を総合すると、次の事実を認めることができ〈る。〉

(1) かつて被控訴人は、昭和四七年二月二一日ジャスコとの契約に基づき、羽田地区において被控訴人がジャスコからグランドホステス業務及び搭載業務に従事する労働者のサービスを継続して受け、これらの労働者と被控訴人会社に雇傭された労働者とを混用していた。

(2) ノースウエスト航空日本支社労働組合は、請求原因3(二)記載のとおりの労働組合であつて東京地区、大阪地区、沖繩地区などに支部を有するものであるが、かねてから被控訴人の羽田地区における右外部労務者使用の形態は職安法第四四条、同法施行規則第四条に違反するものであることを指摘し、昭和四九年九月ころ被控訴人が自己所有の航空機用機材の一部をジャスコにリースするためと称して車体の塗装変えをはじめたのを被控訴人の偽装工作であるとし、同月一七日被控訴人東洋支社長レジナルド・C・ジエンキンス及びジャスコ代表取締役山田実らを同法に違反する事実がある旨東京地方検察庁に告発し、さらに一部国会議員に対しても組合支援を要請した。

(3) 組合は被控訴人に対し、そのころからジャスコ派遣のグランドホステスの正社員化と搭載課下請導入阻止を要求してきたが、被控訴人は昭和四九年九月三〇日の団体交渉において、右グランドホステスの正社員採用には一応試験を経たうえで行う方針である旨回答した。組合は右回答を不満とし無試験全員採用を要求し、同年一〇月一六日から一八日までの間第一次ストライキを決行した(因みに、この件については被控訴人が組合の要求に譲歩し、のちに同年一二月三一日をもつて右グランドホステス全員が正社員として採用された。)。

(4) 組合は、さらに昭和四九年九月ころ被控訴人が搭載課従業員とジャスコ派遣の労働者との分離作業を計画していることを耳にし、同月三〇日の団交において被控訴人会社空港責任者S・イサイアンに質したところ、同人は法的決着がつくまで現状の勤務形態を維持する方針である旨説明した。ところが被控訴人は、同年一〇月二二日社内文書として「一一月一日より全搭載課員は一つのグループに統合する。」旨の改善案を被控訴人会社営業所に提示して発表し、そのころ設けられた団交の席上被控訴人会社の友野人事部長から右文書の趣旨は、従来貨物課及び搭載課に配置されていたジャスコ派遣の下請搭載要員を同課から除外し、それらの者は被控訴人からジャスコに売却する機材を使用して特定の便数の搭載業務を請負う。貨物課及び搭載課に配属されていた被控訴人従業員たる搭載係員を一つの搭載課にまとめ、これらの者が従来の貨物課の業務と搭載課の業務を行うことを意味するものであり、これによつて職安法違反はなくなるとの説明がなされた。これに対し組合は搭載係員の統合撤回と機材売却中止を要求したが、被控訴人側は同年一一月一日から右案を強行すると主張した。

(5) 昭和四九年一〇月二九日衆議院社会労働委員会では、被控訴人とジャスコとの契約関係の実態が追及され、労働大臣はその席上被控訴人会社における労務管理の監督指導を約した。

(6) 組合は、被控訴人の右搭載係員の統合実施とジャスコへの機材売却に対抗して、同年一一月一日から控訴人ら主張の第二次ストライキに突入し、被控訴人のジェイ・ワン・スポット及びその附近に駐車してあつた業務用機材約七〇台を被控訴人の指示がないのに勝手に約二キロメートル離れているハンガーに徐々に持去り、一部を格納し、残部をその附近に密集させて、常時組合員がこれを監視する態勢をとつた(スト指令は被控訴人の管理する機材を占拠するというものであつて、欠陥車両のみを占拠の対象にしたものではなく、また実際に占拠したもののすべてが欠陥車両であつたとは認められない。)。

(7) そのころ、東京都労働局は被控訴人に対し労務管理につき行政指導を開始し、大森公共職業安定所長は昭和四九年一二月六日被控訴人東洋支社及びジャスコに対し「被控訴人がジャスコに請負わせている旅客案内、貨物・手荷物の搭載等の業務は職安法第四四条に抵触する疑いがあるので速かに改善されるよう、なお改善措置についてはその内容を文書をもつて回答するよう。」通告した(被控訴人がジャスコとの間で右業務につき少くとも形式的には職安法施行規則第四条に適合する書面による請負契約(〈証拠〉によれば右契約の内容として、被控訴人はジャスコに一定の業務の遂行を請負わしめ、これに対し一定額の報酬を支払うこととされているが、ジャスコが右業務を遂行するに当り何人の労務者を使用するかについては何らの定めがなく、従つて、右契約は労働者供給契約としてもつとも特徴的な労働者一日あたりの労働単価の定めを欠いていることが認められる。)を締結し、これを右所長に報告したのは昭和五二年二月であることは弁論の全趣旨により明らかである。)。

(8) 被控訴人は昭和四九年一一月一八日東京地方裁判所に対し組合代表者中央執行委員長を相手方として航空機サービス用機材の運行妨害禁止等の仮処分を申請したところ、同裁判所から和解の勧告がなされ、被控訴人と組合は同年一二月一六日「覚書」をもつて運輸部の機構は旅客課・貨物課・搭載課をもつて構成されること、及び未解決の搭載課の問題については労使双方今後協議を連続すること等を確認する旨を約して和解し、組合は同日ストライキを解除した。

(二)  本件ストライキと本件休業の関係

〈証拠〉を総合すると、次の事実を認めることができ〈る。〉

(1) 被控訴人会社の昭和四九年一一月及び一二月当時の飛行便の運航予定は、西回り(アメリカから東京を経由して韓国・東南アジア方向へ向う便)及び東回り(右の逆)の旅客便は毎日各四便(そのうち大阪を経由するのは一日各一便、沖繩を経由するのは一週各三便)、貨物便はそれぞれ月曜日から土曜日まで毎日各一便(そのうち大阪を経由するのは各四便)であつた。

(2) 羽田空港においては、昭和四九年一一月一日から第二次ストによる組合の職場放棄と機材占拠により被控訴人会社の非組合員である管理職らが地上作業を行うことになり、スト突入当初は組合に占拠されない機材を使用したり他社から一時借用したりして予定の運航実施に努めたが、残された機材も徐々に組合に占拠されたりして東京からの機内食の持込ができず、かつ他の地上作業も困難となり、能率の低下を来して次第に予定便数の変更と路線変更の止むなきに至り、貨物便の全面運航中止(一一月一日から)、旅客便は同月中旬ころから一日四便(主要路線のみ)に減らし、かつ乗客の多い大阪・台北間の臨時便を追加して運航することになつたが、それらの運航は平常のそれに比して約五〇パーセント程度であつた。

(3) 沖繩においては、一一月中旬以降の右運航スケジュールの変更により月曜日の便(第七便)を除いて他は欠航となり、残つた右の便もマニラ到着予定が二三時二五分であるため東京の到着、出発が遅れたりするとマニラ到着が二四時以降(マニラでは戒厳令の関係で同時以降の離着陸は原則として許されない。)となる虞があるところから沖繩を経由しないこととし、また沖繩の乗客の利用の必要性と被控訴人会社の路線が国際便であるということから沖繩経由の必要は全くないとの被控訴人の判断に基づいて同月一二日以降は飛行機が沖繩を経由しなくなり、被控訴人は控訴人らに対し前示休業を命じた。

(4) 大阪においては、既述のとおり一一月一日以降の貨物便の運航が廃止され、同月中旬のスケジュール変更により東京・大阪経由の国際旅客便は原則として大阪寄航をとりやめ、乗客の必要性が多い大阪・台北間の飛行便を加えた。しかし右大阪・台北間の便は運輸省より同月二二日以降同年一二月一一日までの間臨時便として許可を受ける扱いとなり、期限後の運航は許されなくなつたため大阪・台北間の便も一二月一二日以降はなくなり、それに替えて貨物便の運航を再開した。

被控訴人は羽田空港における組合員の機材占拠と右臨時便の継続運航ができないことを理由として控訴人らに対し前示休業を命じた。

以上認定の事実によれば、大阪及び沖繩における本件休業命令は、羽田空港における組合員の機材占拠により被控訴人が平常運航スケジュールの変更を余儀なくされ、その結果沖繩、大阪の寄航を取りやめた結果、控訴人らの就労を必要としなくなつたとして発せられたものということができる。

(三)  被控訴人の帰責事由の有無

職安法第四四条は、労働者供給事業を行う者が労働者の労働に対する中間搾取をすることを禁ずる趣旨のものであることは明らかであるが、企業が本来の職員たる労働者のほかにかかる労働者供給事業を行う者によつて供給される同種労働者を使用することを許容するときは、かかる未組織労働者あるいは組織化の弱い労働者の労賃は、組織労働者の労賃より低いのが通常であつて、それが職員たる労働者の労働条件を低下させ、あるいはその改善を妨げる虞につながるから、右第四四条は、単に労働に対する中間搾取を禁ずるにとどまらず、一般的に労働者の団結及び労働条件の改善を助長する機能を営むものであるといえよう。それ故企業が右第四四条に違反している場合に、労働組合が企業に対し右違反をやめること及びその手段として被供給労働者の職員化等を要求することは、なんら不当な要求ではない。そして労働条件に関して使用者と労働組合との間に紛争がある場合にそれぞれの主張のいずれが法律的に正当でいずれが法律的に不当であるということは通常これが断定しえないのであるけれども、右のような場合に限つては、組合の要求が正当であつて、使用者が右要求を拒否すれば、その拒否は不当であるということになろう(もつともこの場合使用者が法律上義務づけられているのは職安法第四四条に違反する状態の除去だけであるから、それが実現した場合、組合のそれ以上の要求すなわち従前の被供給労働者を職員化するか否かの問題あるいは、職安法違反に当らないものを含む、一切の部外労働者の使用を廃止するか否かの問題については、要求と拒否のいずれが法律上正当であるかということはいえなくなるのであるが。)。

以上の法理と前認定の経緯とを考えあわせると、本件休業の原因となつた組合の第二次ストはもともと被控訴人会社が前記のようにジャスコから労働者の供給を受け、これを被控訴人会社職員である労働者と混在しめてその業務を遂行していたという職安法第四四条違反に端を発したものであり、これに対し組合が是正を要求し、グランドホステスに関連する問題は被控訴人会社がこれを早期に受諾したので解決を見たが、搭載課等の関係については紛争が長びき、東京地方裁判所における和解成立による一応の解決に及んだのであつて、この間組合が一〇月二二日における団体交渉において被控訴人の説明に納得せず、なお職安法違反の状態が継続しているものとして、これが是正を求めストライキを行つたのは無理からぬことと考えられる。もつとも、前認定のように被控訴人は右団体交渉において組合に対し、課の統合、ジャスコに対する機材の譲渡、内外労務者の分離作業によつて職安法違反の状態が除去される旨を説明したのであるが、外部労務者の供給が職安法第四四条にいう労働者供給に該るかどうかについては、同法施行規則第四条に厳しい判断基準が設けられているところであるから、課を統合し、ジャスコに機材を譲渡し、内外労務者の作業を分離したのみでは、従前の違反状態が除去されたことにはならないから、それだけで組合が納得しなかつたのは当然である。また前出乙第二五号証によれば、被控訴人は同年一一月八日ジャスコとの間で、少くとも形式的には職安法第四四条に抵触しない内容の業務遂行契約を締結したと認められるのであるから、被控訴人としては、これを組合側に提示して、違反是正の実をあげたことを説明し、もつてストライキの早期解決を図るべきであつたのに、これをしたと認めるべき資料はない。それ故被控訴人は一一月一日の本件第二次スト開始以前においては、みずから職安法違反をおかすことによつてストライキの発生を招いた点に過失があり、本件各休業直前の状態においては右契約改定の事実があるのに、これを組合に知らしめ納得させるための努力を怠り(右努力をなしたことを認めるに足りる証拠はない。)、ストライキを長期化させたについて過失があつたのであり、右の過失は結局本件各休業という結果を招いたものであるというほかはない。すなわち被控訴人は沖繩及び大阪における各休業についてその責に帰すべき事由があつたというべきで、そのことは組合が本件第二次ストライキに当り、単なる労務不提供にとどまらず、機材の占拠という違法な手段を用いたことによつてもこれを否定しさることはできない。

四してみれば、被控訴人は控訴人らに対し、それぞれの休業による不就労期間に応じ、平均賃金の六〇パーセント以上の休業手当を支払う義務があるというべきであり、本件弁論の全趣旨によれば原判決請求債権目録中請求債権(二)の各金額が、それぞれ控訴人らの不就労期間に対応する平均賃金の六〇パーセントに当たることが明らかであるから、右各金額及びこれに対する最終弁済期日の昭和四九年一二月二五日(本件弁論の全趣旨によれば、被控訴人会社においては基本給及び毎月支払額が一定の諸手当は毎月その月分を二五日に支払われる定めのあることが認められるところ、休業手当の支払期日は基本給のそれに準ずべきものと解される。)の後である昭和五〇年一月二六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める控訴人らの予備的請求は正当として認容すべきものである。

五本件被控訴人はアメリカ法人であるところから、国際私法上の問題について附言する。

賃金債権の雇傭契約より生ずるものであるから、その成立及び効力については、法例第七条第一項により、当事者の意思に従い日、米いずれの法律によるべきかを定むべきところ、被控訴人は商法第四七条に則り、日本における代表者及び営業所を定め、その登記をなしている(この点は記録によつて認められる。)のであるから、日本国内において日本人を雇傭する場合においては日本法による意思があつたものと推認せられる。よつて主たる請求については日本法に基づいて判断したものである。仮りに右推認が誤りであるとしても、他に当事者の意思を明かにする資料はないから、同条第二項により同様の結果となる。

休業手当債権は、日本における強行的私法たる労働基準法第二六条による権利であつて、もともとアメリカ法を適用すべき余地のない問題であるから、予備的請求については、当然のことながら、日本法によつて判断したものである。

六それ故、控訴人らの請求をすべて棄却した原判決は一部不当であるから、如上説示のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第九三条、第九二条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(石川義夫 寺澤光子 寒竹剛)

(別紙)請求債権目録〈省略〉

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